スマホで写真をキレイに撮る講座ページ
準備編

準備編1 スマ鉄!の利点と欠点

ひと昔前までは携帯電話やスマートフォン(以下スマホ)のカメラは、電話に付属するおまけ機能でしたが、SNSなどで写真をアップする機会が増えた今は、携帯のカメラ機能も驚くほど進歩しています。とくにスマホに搭載されたカメラの性能の進化は著しく、安価なコンパクトデジタルカメラよりもはるかに優秀なカメラ機能を搭載した機種もどんどん登場しています。

スマホのカメラでは、高速で動く鉄道の撮影は難しいと思いがちですが、実はそうではありません。もちろん通常のカメラに比べて撮りづらさを感じることもありますが、使い方を覚えれば十分に撮影することができます。

今回はスマホを使った鉄道撮影術、略して「スマ鉄!」の楽しみ方を解説していきます。

それではまず、スマホのカメラの利点と欠点を見てみましょう。

利点

  • 小型で軽量
  • 高速連写が出来る機種が増えた
  • すぐにSNSにアップできる
  • 写真修正・加工アプリが充実している

欠点

  • 望遠レンズが使えない
  • 高速で移動する被写体が歪む
  • フルオート撮影しかできない機種もある
  • センサーが小型なので大伸ばしに弱い、高感度画質が悪い

最大の利点は持ち歩きやすさと、手軽にSNSに撮影した画像をアップできることでしょう。とくにSNSに写真をのせることが目的の人には最高のカメラだと言えます。電池の充電や、メモリーカードがいらないなどの取扱いやすさも魅力です。また写真を加工したりするアプリが通常のスマホよりもかなり充実しており、撮ったあとの楽しみが多いのも嬉しいところです。

いっぽうスマホの最大の欠点は、基本のレンズが広角レンズであるところです。記念写真やお店で料理などを撮りやすい画角ではあるのですが、鉄道写真は望遠レンズ、少なくても標準レンズがないと撮れないシーンが多いので、広角が基本レンズであるスマホでは撮影できないシーンがあるのも事実です。
ただズーム機能を使ったり、後で紹介する外付けの望遠レンズなどを使って撮影することも可能です。またスマホだと露出補正はできるものの、シャッター速度やISO感度を変えられない機種が多いですが、それも有料アプリを使うことでカバーすることもできます。

またスマホのカメラは構造上高速で移動する被写体を撮ると、ローリングシャッター現象をおこしてしまいます。新幹線の車窓を撮影したときに、電柱がナナメに傾いてしまうあの現象です。
ただいくら速い京急でも、通常の鉄道写真で車両の形が歪むことはほとんどないので、あまり気にしなくていいでしょう。
いずれにせよ、スマホ撮影に向いた場所を選んだり、アプリや外付けのアクセサリーをうまく使いこなすことで、十分鉄道の撮影を楽しむことができます。

準備編2 スマ鉄!撮影時のコツ

モニターを見ながら撮影するスマホ撮影のときは、画面に服の色が反射しにくい黒っぽい服装がオススメです。
シャッターは画面上に表示されるボタンを押すことで切れますが、機種によっては音量ボタンをシャッターボタンにできるものもあります。手ブレや構図がずれたりしないように、押しやすいシャッターボタンを選択しましょう。
慣れるまではシャッターを押すことで不安定な姿勢になりがち。スマホを誤って落とさないようにストラップを常に手にかけておくといいでしょう。

なお今回の撮影はすべて、僕がいつも使っているスマホで撮影しています。

実践編

実践編1 ホームで形式写真を撮る①

● ホームでの撮影のコツ


立ったまま撮影

しゃがんで撮影

まずはホームに停車中の電車を撮る基本から。
撮影時どうしても立ったままの高さで撮ってしまいがちですが、ホームにしゃがんだ高さで撮ると、パースがついてかっこよく見えます。
作例は引退が迫った800形電車をホームで撮影したもの。立ったまま撮影した1枚目の写真では、電車の上部が大きく少し不格好に写ってしまっていますが、しゃがんで撮影した2枚目の写真では、パースがついてかっこよく写っているのがわかると思います。
言うまでもないですが、ホームは撮影するための場所ではないので、まわりの利用者の迷惑にならないように気をつけましょう。
また安全のため、いかなる場合でも点状ブロックの内側で撮影するようにしましょう。

実践編2 ホームで形式写真を撮る②


反対のホームから立ったまま撮影

反対のホームからしゃがんで撮影

電車の形を正確に記録する「形式写真」を撮るなら、電車が停車している線路の反対側のホームに行き、車両の先頭から最後尾まで切れないような構図で撮影します。電車の停止位置の標識があるので、それを目安に撮影位置を決めるといいでしょう。
このとき撮影しているホームの後方から電車が進入してくることがありますので、撮影には細心の注意が必要です。
そのときもやはり、しゃがんで低い位置から撮るほうがフォルムは美しいですが、停止位置標識がスカート部分にかかってしまうことが多いので、それが気になるようでしたら、立ったままの撮影でも問題ありません。

実践編3 「編成写真」にチャレンジ①

● 編成写真の撮り方① 「場所選び」

スマ鉄!「編成写真」

走っている電車を撮った写真を「編成写真」といいます。編成写真は電車の先頭から最後尾までをきちんと入れて撮るのが基本で、通常は標準レンズから望遠レンズを使用して撮ることがほとんどです。
ただすでに解説したとおり、スマホの基本レンズは広角レンズで、僕が使用しているスマホも基本は28mmになります。まずはこの広角レンズの画角で撮れる場所を探すことが最大の難関と言えるでしょう。


僕がこの記事を書くにあたり、探し回ってようやく見つけたオススメポイントは、花月園駅に近いこちらの場所。
こうしてみるとオリに閉じ込められたメタボな熊のようですが(笑)、スマホでもカッコいい編成写真が撮れるすごい場所なのです。
また通常のカメラでは金網越しになってしまいますが、レンズの小さいスマホでは金網の隙間を使って、安全に撮影することができる、まさにスマ鉄に最適なポイントなのです。

それではここで編成写真を撮る方法を、解説していきましょう。

● 編成写真の撮り方② 「構図づくりの基本」

編成写真の構図

写真の基本は、待ち伏せ撮りです。見えてきた電車を追い続けると日の丸構図になってしまったり、ピントがずれてしまったりしがち。それを避けるために、あらかじめ上の写真のような構図を決めて、さらに露出とピントを固定しておき、走ってくる電車を待ち伏せて撮影するのです。

1500形の作例を見てもらえばわかるように、編成写真の構図は、電車の先頭から最後尾までが切れないように、電車の前後の空間もできるだけ均等に、余裕を持った構図がベストです。電車が来る前の写真を見てもらえばわかるように、線路は構図のかなり下のほうに置くのがコツ。電車を待っているときは線路が下すぎるように感じますが、実際に電車が来るとバランスの良い構図になります。

悪い構図の例

こちらは悪い例。画面の真ん中に車両の顔が来てしまっている「日の丸構図」になっているほか、線路位置が画面の中心に近くなっているので、線路下の余計な部分が多くなってしまっています。

● 編成写真の撮り方③ 「露出設定」

画面をタッチ長押しでAE/AFロック

構図が決まったら、電車の先頭が来ると予測される位置に、あらかじめピントを合わせておく「置きピン」をして電車を待ちます。電車が来る直前に指でタッチして合わせてもいいのですが、便利なのが「AE/AFロック機能」です。機種によってやり方は異なりますが、僕が使用しているスマホでは、ピントを合わせたい位置にタッチしたまま長押しすると、「AE/AFロック」の黄色いマークが画面に表示され、写真のピント位置と明るさが固定されます。固定した明るさを変えたい場合は、タッチした横に表示されるスライダーで明るさを調整することも可能です。

AE/AFロックされた画面

● 編成写真の撮り方④ 「連写で撮る」

シャッター長押しで連写撮影

構図を決めてピントと明るさを固定したら、あとは構図がずれないようにしっかりとホールドし、ピントを合わせた線路位置に電車が来た瞬間にシャッターを長押しして連写します。最近のスマホの連射性能は驚くほど速く、入門用のデジカメよりも高速連写が可能な機種が多くなっています。
下の動画は連写した全カットをパラパラ漫画のようにつなげて動画にしたもの。僕のスマホでは連写した写真の中からお気に入りのカットだけを選択できるので、スマホの容量が気になる人は、アタリカット以外は消去してしまってもいいでしょう。

● 編成写真の撮り方⑤ 「望遠撮影」


A:スマホの画角のまま撮影(26mm相当)

B:望遠レンズをつけて撮影(60mm相当)

上の同じ場所で撮影した2枚の作例は、Aがスマホの広角のまま撮影したもので、Bは外付けの望遠レンズを装着して撮影したものです。やはり広角レンズのままのAの作例では、画角が広すぎて電車の形がうまく表現できていません。

このようにどうしても広角では撮れない場所では、スマホのデジタルズームを利用して撮影します。画面を拡大するようにピンチアウトして望遠レンズにしますが、正確に言えば望遠レンズになっているわけではなく、画面の一部を切り抜く「トリミング」をしているだけですので、かなり画質が劣化してしまいます。そんなときはデジタルズームを効かせすぎず、1.2~1.4倍くらいのあまり画質が悪化しない程度に抑え、撮影後に画像編集アプリでトリミングしたほうが、画質の悪化を抑えられます。

スマホと外付け望遠レンズ

どうしてもスマホで望遠撮影したい!という僕のような人には(笑)、外付けの望遠レンズがオススメです。クリップでスマホ本体に挟み込む形で固定するものや、スマホカバーと一体になっていて、スライドさせることでレンズ交換が可能になる凝ったつくりのものまでたくさん販売されていますので、予算に合わせて選びましょう。これらの外付けレンズは装着するだけでスマホの画面を見ながら撮影できますし、光学式ですので、画質を劣化させることなく望遠撮影を楽しめます。

僕は安いものから高価なものまでたくさん購入してきましたが、あまり倍率が高いものよりも、倍率は控えめでレンズ口径が大きいもののほうが画質が良い傾向にあります。僕が気に入ったのは、スライド装着式の本格派レンズです。60mm相当と標準レンズに近い画角ですが、テストした中では最も画質の劣化が少ないレンズでした。価格は1万円を超えるうえ、専用のスマホケースも別売りですが、本格的に撮影するなら揃えておいて間違いないでしょう。

60mm相当で撮影

残り1編成のみとなった800形電車を、浦賀駅で撮影。こちらも外付けの望遠レンズを装着して撮影しましたが、通常のデジカメと変わらない、高画質な編成写真を、スマホで撮ることができました。

いろいろな「スマ鉄!」にチャレンジ!

鉄道風景写真

鉄道の車両だけでなく、周囲の風景も入れて撮影する「鉄道風景写真」でも、スマホは大活躍。
このような広角の画角をいかした風景写真なら、普通のデジカメと同じように撮影することが可能です。



風景写真の場合は、鉄道だけでなく風景の美しさも重要になるので、「鉄道」と「風景」という2つの要素をバランスよく構図に収めることが大切です。上の写真は電車全体をいれつつ、奥の新緑も入れて爽やかな初夏の風景を表現しています。いっぽう下の作品では、電車の顔を画面の中央のラインにおいてしまったため、画面下の部分が広くなり、肝心の新緑がほとんど切れてしまっています。

もっと大胆に新緑を主題にして撮影したのがこの作品。
電車はかなり小さくなりますが、初夏の爽やかさが強調されているのがわかると思います。

こういう構図を作る最大のコツは、「何に自分が感動したか?」を意識すること。もし新緑がきれいだなと感じたら、それを主題にして、電車を小さくするのもアリなのです。まさにこれは「ゆる鉄」ですね。



六郷土手駅近くの土手には、シロツメクサが咲き誇っていました。
ここでは画面の下2/3くらいがシロツメクサになるような構図にして、画面上1/3くらいの位置に電車を収めました。
主役である「電車」と副題である「花」を、いかにバランスよく配置するかが重要になるのです。



もし花の美しさに感動したなら、ピントを花に合わせて、電車をぼかしてしまってもいいのです。ただしそのとき、電車がボケすぎて存在感がなくならないように注意しましょう。

機種にもよりますが、スマホのカメラには色調をコントロールする機能も搭載されていますので、天気が悪く冷たい雰囲気の場合に、温かい色の作品に仕上げることもできます。ここではビビッド(暖かい)を選択し、やさしい色調に変えてみました。

スピード感のある流し撮り。
スマ鉄!でもここまで撮れる!

そして最後はスマホでは難しいと言われる「流し撮り」にも挑戦してみました。電車の動きに合わせてカメラをパンすることで、電車の背景の風景を流し、スピード感や動感を表現する流し撮りは、低速シャッターに設定する必要がありますが、僕が使うスマホはAE(オート露出)のみでシャッター速度などを自分で決めるマニュアル撮影はできません。そこでスマホでもマニュアル撮影が可能になる有料アプリを使って、低速シャッターに設定します。

有料のマニュアル撮影ができる
アプリとお手製のNDフィルター、
外付け望遠レンズを使用

さらに昼間は明るすぎて低速シャッターにできないので、シート状のNDフィルターを切ってスマホのカメラに装着します。そうすることで強制的にシャッター速度を落とそうという狙いですが、そのままだとスマホは感度を上げて手ブレを防ごうとしてしまうため、画質がかなり荒れてしまいます。そこでさきほどのシャッタースピードを変えられるアプリでISO感度をISO50にマニュアル設定し、1/20秒という低速シャッターにセットすることができました。

さらに外付けの望遠レンズを装着し、電車の動きに合わせて流し撮り!外付けレンズと有料アプリと、お手製のNDフィルターを使うという力ワザではありますが、スマホでもここまで撮れる!ということが実感していただけたのではないでしょうか。

ここまでスマホで鉄道を撮る「スマ鉄!」について解説してきましたが、いかがでしたか?
ハードルが高いと思われていたスマホによる鉄道写真撮影ですが、
ちょっとしたコツと工夫があれば、十分に撮影できることがおわかりいただけたと思います。

毎年募集している京急カレンダーでは、今年からWEBでの応募もはじまり、
スマホで撮影した画像も対象となっています。
ぜひこの記事を参考に、素敵な京急のスマ鉄!を応募してください。
お待ちしていま~す。

中井精也(なかいせいや)

1967年、東京生まれ。鉄道の車両だけにこだわらず、鉄道にかかわるすべてのものを被写体として独自の視点で鉄道を撮影し、「1日1鉄!」や「ゆる鉄」など新しい鉄道写真のジャンルを生み出した。2004年春から毎日1枚必ず鉄道写真を撮影するブログ「1日1鉄!」を継続中。広告、雑誌写真の撮影のほか、講演やテレビ出演など幅広く活動している。
株式会社フォート・ナカイ代表。2015年、講談社出版文化賞・写真賞、日本写真協会賞新人賞受賞。著書・写真集に「1日1鉄!」、「デジタル一眼レフカメラと写真の教科書」「DREAM TRAIN」(インプレス・ジャパン)、「ゆる鉄」(クレオ)、「都電荒川線フォトさんぽ」(玄光社)などがある。甘党。

2020年度カレンダー写真募集 写真募集中!
楽しい!鉄道写真入門はこちら
京急カレンダー2019 講評コーナーはこちら
続・楽しい!鉄道写真入門

ページトップ