毎年大好評いただいている京急カレンダーの2019年度版の作品が決定しました。

今回も力作が多く、たった26点しかない採用作品を選ぶのにとても苦労しましたが、昨年よりもさらにパワーアップしたカレンダーになりました。
いったいどんな作品が選ばれたのでしょうか?

そして毎年恒例となりました、中井精也の鉄道写真講座。
今回は2019年度京急カレンダーに応募していただいた作品の中から、惜しくも選考を逃した名作をご紹介するとともに、その写真をより良くする方法やアイディアを、解説したいと思います。

まばゆいばかりの新緑と引退した2000形の組み合わせが、とても美しい一枚です。列車をアップで捉える「編成写真」なのに季節感も表現できているのがいいですね。
 ただよく見てみると、構図のど真ん中に列車の顔がある「日の丸構図」になってしまっています。オートフォーカスでピントをあわせようとするとき、ピントを合わせるのに使うフォーカスポイントが中央にしていることが多いので、どうしても日の丸構図になりがちです。それを避けるために覚えておいてほしいのがレイルマン構図です。

レイルマン構図とは、画面を縦に4分割した線と対角線の交点から中心を除いた4点に被写体を配置するという考え方。これによって日の丸構図を避けられるとともに、画面全体のバランスを良くすることができます。

そこでレイルマン構図の右上の1点に列車の正面を配置するとこんな構図になりました。背景の白い空が画面から外れて爽やかな印象になっただけでなく、上の2点を結ぶラインに列車、下の2点を結ぶラインに新緑がくることで、全体のバランスが良くなっているのがわかると思います。

慣れるまでは、まず構図の中心に列車を配置しない!と決めて、レイルマン構図を参考にしながら、構図を作るといいでしょう。

ガクアジサイが咲き誇る先に走る京急という、とっても贅沢な風景ですね。このままでも完璧な構図ですが、列車を撮影する位置が奥すぎるのがもったいない気がしてしまいます。このままの構図で撮るなら、列車が画面の左のほう、レイルマン構図で言えば左上の1点の位置に列車が来たときが、最高のシャッターチャンスだと思います。

さらにカレンダーを忘れて、縦位置で構えてみるのもオススメです。

こちらは縦位置でトリミングした構図。横位置では少し気になった、画面中央下のアジサイがない部分がカットされ、花のボリュームがアップしているのがわかると思います。
列車はレイルマン構図を縦にしたときの左上の1点に配置することで、落ち着きのある構図になりました。
この場所のように、横位置で構えると花のボリュームがでないときは、とりあえず縦位置に構えて見ると、見え方に変化がつきますので、お試しください。

アジサイにピントを合わせて、奥の列車をぼかしている味わい深い作品。アジサイの手前の部分のピントが少し甘めですが、ほとんど気になりません。誰がどう見ても、この写真を撮った人はアジサイを主役にしているということが伝わる、とてもいい写真だと思います。
気になるのは列車の位置。アジサイに列車が顔を突っ込んでしまっているように見える位置は、あまりオススメできません。列車の先頭部は、モデルで言えば顔のようなもの。顔の部分は重要度が高く、写真のなかでの力も強い部分もあるので、主役の花と重ねないようにしたほうがいいでしょう。

そしてイラスト加工してみたのがこちら。列車と花が分離することで、どちらも魅力を失うことなく、存在しているのがわかると思います。ぼけているとはいっても、列車は列車。ピントがあっているときと同じように、繊細な構図をつくるようにしたいところです。

ワイドなフレーミングで、雪のなか力走する1500形を撮影してくれた一枚。ここで注目してほしいのは、降っている雪の粒。画面上半分に比べて、下半分はたくさん雪が写っていることにお気づきでしょうか。
もちろん画面の下半分にだけ雪が降っているわけではなく、上半分は背景の色に雪が同化してしまい、目立たなくなっているのです。
 逆を言えば、雪を撮りたい時は、白い背景を避けて、こういう暗い背景や、トンネルなどをバックに撮ると、雪を目立たせることができるのです。それをうまく使ったこの作品は、場所選びの上手さが光っています。

それではせっかくなので、雪の目立たない白い空の部分をトリミングしてみましょう。幸い列車の前の部分に空間があったので、列車ギリギリの位置でトリミングすることで、列車全体をいれたまま、白いそらの面積を減らすことができました。しんしんと降る雪が旅情たっぷりの作品になりました。

こちらもアジサイと京急を撮影した作品。京急は桜と撮影できる名所がたくさんありますね。実はこの写真には、構図としては悪いところはありません。画面全体をのびのびと使った、バランスのいい構図だと思います。
ここであえて僕が言いたいのは、列車と花のバランスです。列車の姿形をしっかりと記録する「編成写真」や、撮り手がいいと感じた花などの副題を、あえて主役にする「鉄道イメージ写真」など、鉄道写真にはいろいろな種類があります。それを基準にこの写真を見てみると、この写真が「編成写真」なのか「イメージ写真」なのか、写真を見る人が迷ってしまうかもしれません。「編成写真」であれば、花が列車にかかってしまっているのは残念ですし、「イメージ写真」として見ると列車が大きすぎて、花が目立たなくなってしまっているのです。

そこでイラスト化し、花にピントをあわせて列車を小さくぼかす構図を擬似的に作ってみます。最初の作品に比べ、列車の力が弱まり、見せたいアジサイが目立つことで、誰がみても「イメージ写真」とわかる作品になりました。写真がどのカテゴリーになるかを分類するのは重要ではありませんが、撮り手が見せたいのが車両なのか、花なのかを明確にすることで、より伝わる写真にすることができるのです。主題と副題のバランス、構図づくりの際には、気にかけてほしいと思います。

懐かしい青果店と、京急が撮れるポイントをよく見つけましたね。足で稼いだスペシャルなポイント、素晴らしいと思います。この写真では踏切の様子や背景の町並みを入れることで、懐かしい青果店の違和感や、シチュエーションをわからせる工夫をしていますが、次のように思いっきり青果店を主役にしたカットもオススメです。

それがこちら。ちょっと気になった背景の送電線や、車などを画面から外すことで、青果店が一番目立つ構図になりました。さらに低速シャッターで列車をぶらすことで、列車の力を弱め、さらに青果店を目立たせています。
日光を防ぐ簾がいい味を出してくれていますが、夕方など、店の様子がわかる時間帯に撮った写真も見てみたくなりました。

以上、いかがでしたでしょうか?
全体に通して言えることは、何が写真の主役なのかを明確にすることで、撮り手の意図を写真が雄弁に語ってくれるということです。
漫然と撮るのではなく、シャッターを切るときに、何が主役なのかを意識してみると、きっと写真が劇的に変わりますので、ぜひチャレンジしてみてくださいね。

中井精也氏(なかいせいや)

1967年、東京生まれ。鉄道の車両だけにこだわらず、鉄道にかかわるすべてのものを被写体として独自の視点で鉄道を撮影し、「1日1鉄!」や「ゆる鉄」など新しい鉄道写真のジャンルを生み出した。2004年春から毎日1枚必ず鉄道写真を撮影するブログ「1日1鉄!」を継続中。広告、雑誌写真の撮影のほか、講演やテレビ出演など幅広く活動している。
株式会社フォート・ナカイ代表。2015年、講談社出版文化賞・写真賞、日本写真協会賞新人賞受賞。著書・写真集に「1日1鉄!」、「デジタル一眼レフカメラと写真の教科書」「DREAM TRAIN」(インプレス・ジャパン)、「ゆる鉄」(クレオ)、「都電荒川線フォトさんぽ」(玄光社)などがある。甘党。

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