鉄道写真家中井精也の「楽しい!鉄道写真入門」
  • 第1回:鉄道写真の種類
  • 第2回:編成写真の撮り方
  • 第3回:鉄道風景写真のススメ
  • 第4回:流し撮りにチャレンジしよう!
鉄道写真の種類

ひとくちに「鉄道写真」といってもいろいろな種類があります。
ここでお見せしているのは、すべて京浜急行を被写体とした鉄道写真ですが、いろいろな種類があるのがわかりますね。
ここではわかりやすくするために、3つの種類に分けてご紹介します。

1.編成写真

簡単そうに見えて実は難しい編成写真

鉄道写真の王道と言われる写真。そのため簡単そうに見えますが、実は撮影するのに知識やコツが必要になります。

車両の最前部から最後尾まで、画面からはみ出ずに入れるのが基本なので、場所選びも大切です。

2.風景写真

美しい風景とともに鉄道を撮影する鉄道風景写真

四季折々、美しく変化する風景のなかを走る鉄道の姿を被写体にするのが「鉄道風景写真」です。

一枚の写真のなかに「鉄道」と「風景」という複数の要素が入るので、バランスのいい構図づくりがポイントになります。

3.イメージ写真

スピード感を主題とした「鉄道イメージ写真」
季節感を主役とした「鉄道イメージ写真」

鉄道をイメージ的に捉える「鉄道イメージ写真」は、自分の見せたいイメージに合わせて自由な発想で撮影した鉄道写真です。

一枚目は「スピード感」を主題にした流し撮り。
二枚目は「季節感」を主題にするために、主役であるはずの列車をわざとぶらしています。

編成写真のように細かいルールはありませんが、そのぶん撮り手が何を訴えたいかをきちんと意識していないと、伝わりにくい写真になってしまいがちです。

このように鉄道写真にはいろいろな種類があります。
これから鉄道写真をはじめたいと思っている人は、最初にどのジャンルを撮りたいかを意識することが大切です。
同じ鉄道が被写体ではありますが、撮り方やアプローチの仕方が大きく違っているので、まずは自分が撮りたい写真にチャレンジしてみるといいでしょう。

次回は鉄道写真の基本、編成写真の撮り方について解説します。

編成写真の撮り方

鉄道写真の基本と言われる「編成写真」。一見すると簡単そうに見えますが、実はけっこう難易度の高い撮影でもあります。定番の撮影だけに、押さえておきたい基本ルールもあります。

鉄道写真の基本ルール

  1. 走り去る列車ではなく、走ってくる列車を狙う。
  2. 列車の先頭から最後尾までが切れないような構図で撮影する。
  3. 列車がブレないように、高速シャッター(1/500秒以上)で撮影する。

それでは上記をふまえて、「編成写真」の撮り方をいくつかのポイントにわけて解説しましょう。

1.場所選び

京急線を撮影する場合、ホームでの撮影が中心になりますが、以下のことを守って撮影するようにしてください。

  1. 三脚を立てない
  2. 黄色い線の外側に出ない
  3. 列車に向けてフラッシュを光らせない

たくさんの駅があるので、迷ってしまいますが、ゆるやかにカーブしている駅を選ぶと、安全に撮影することができます。直線だと、列車の最後尾と撮影しているホームが重なりがちなので、黄色い線の内側での撮影が難しくなります。僕のオススメは逸見駅。ここは緩やかなカーブの途中に駅があるので、上り下りどちらを向いても、黄色い線の内側から安全に撮影することができます。レンズは望遠がベストです。

逸見駅上りホームより上り方を望む
逸見駅上りホームより下り方を望む

2.構図

場所が決まったら構図をつくりますが、まず最初に気をつけなければいけないのは「日の丸構図」にならないようにすることです。

美しい風景とともに鉄道を撮影する鉄道風景写真

この写真はファインダーの真ん中で列車を追ってしまったため、画面の中央に列車の顔が来る「日の丸構図」になっており、列車の最後尾も画面からはみ出してしまっています。慣れないうちは遠くから列車を画面中央で見てしまうので、日の丸構図になりがちです。それを避けるコツは、きちんとした構図をつくって、列車が来るのを待ち受けて撮ることです。

こちらが成功例。きちんと先頭から最後尾まで構図に収まっていますね。この構図を作れるようになるためには、構図を作る時点では存在しない列車の大きさを、予測できるようになることが大切です。まずは列車の先頭がどの位置に来たときにシャッターを押すのかを決め、そのときに列車の最後尾がどこになるかを予測します。そのとき、このようなカーブだと、線路が奥で曲がっているので、はみ出る心配がなくて有利なのです。

次に決めるのは構図のなかでの線路の位置。ちなみにこの写真は、列車が来る前の構図ですが、列車がいないとかなり画面の下の方に線路がある構図になっているのがわかりますね。

撮影地全体から、編成写真の構図を見たのが赤枠です。このように列車が通る線路の下の空間をなくし、画面の下の方に線路を配置した構図を作れるかどうかが、美しい編成写真を撮れるかどうかの鍵になるのです。

3.ピント

最近のカメラは高性能になったので、AF(オートフォーカス)でも十分ピントを合わせることができるようになりました。

まずAFモードは、動いている被写体にピントを合わせ続けられる「AF-C」を選択。続いてAFでピントを合わせるためのフォーカスポイント(写真赤枠)を、列車の先頭が来るであろう位置に置いておき、列車が重なった瞬間にシャッターを押します。またカメラによっては、動く被写体に合わせてフォーカスポイントを自動選択してくれる「オートエリア」モードもありますので、そちらもオススメです。

MF(マニュアルフォーカス)でピントを合わせる場合は、列車の先頭部が来るであろう位置にある線路に、あらかじめピントをあわせておく「置きピン」で撮影します。写真の赤丸で囲った部分がピントを合わせる位置になります。

4.シャッター速度

動いている列車がブレないようにするため、シャッター速度は1/500秒以上の高速シャッターに設定しましょう。ただし、最近の車両は方向幕がLED方式のため、あまり高速シャッターにすると表示が欠けてしまいます。ちなみに上が1/500秒で、下は1/800秒です。つまり京急を撮影する場合は、1/500秒で撮影するのが正解なのです。

5.編成写真バリエーション


上り通過列車 400mm

下り停車列車 140mm

上り停車列車 250mm

この逸見駅ではいろいろな編成写真を撮影することができます。安全に十分配慮し、撮影を楽しんでください。

鉄道風景写真のススメ

日本の風景は四季折々美しく変化します。その風景と鉄道をからめて撮影するのが、鉄道風景写真です。京急カレンダーに採用される多くの作品が、季節感のある鉄道風景写真になっています。
前回解説した編成写真の主役は言うまでもなく「車両」ですが、この鉄道風景写真では「車両」と「風景」という2つの要素があるため、どちらを優先させるかを意識しないと、散漫な写真になってしまいがちです。

この作例では、列車の背景に大きく海を入れることで、夏らしい季節感を強調していますが、列車の存在感も薄れていないのがわかると思います。つまり、季節感のある風景を魅力的に見せつつ、列車の存在感も失わないようにすることが大切なのです。

鉄道風景写真のコツは、季節感のある被写体を見つけることです。そう考えると、写真と俳句は似ています。俳句は<五・七・五>の17音という限られた文字数のなかに、季節を感じさせる「季語」を入れて作りますが、写真も限られたスペースのなかに「季語」となる被写体を入れることで、季節感を表現するのです。この写真の「季語」は、言うまでもなく「ひまわり」ですね。ここで注目してほしいのが、ピント位置です。鉄道写真だからと言って、必ず鉄道の車両にピントを合わせなければいけないわけではありません。もし「季語」となる被写体が写真の主題だと感じたなら、このように列車をぼかして撮影してもいいのです。ただし鉄道の存在感がなくならないように注意しましょう。この場合は車両が赤色だったので目立ちましたが、ステンレスや背景に近い色の車両で同じ撮り方をすると、列車の存在感はなくなってしまいます。また列車の存在感を損なわない、的確な位置に列車を配置した構図づくりも重要です。


レイルマン構図

これは鉄道風景写真撮影のために僕が考案した構図作成法です。これは画面を縦に4分割した線と対角線の交点から、中心を除いた4点に被写体を置くという考え方。一般的な「三分割法」よりも、ポイントが外側にあるのがわかると思います。風景写真の構図では、広い風景をどこまで構図に入れるか悩んでしまいがちですが、まずこれを使って構図の中の列車を置く位置を決めてしまうことで、構図づくりが簡単になります。

ここではまず右下の1点に列車を置き、残りの3点にまんべんなく紅葉を入れることで、バランスのいい構図にしています。実際には構図を作る時点では車両はいないため、列車を撮りたい位置の線路をポイントと重ねて列車を待ちます。ピントはその線路に「置きピン」しておき、走ってくる列車の先頭部がレイルマン構図のポイントと重なる場所が、シャッターチャンスということになります。

列車が大きめの写真でも、レイルマン構図を使って構図を作ることができます。何も意識しないと、日の丸構図になってしまいそうなシーンでも、このレイルマン構図を意識することで、それを避けることができるのです。ここでは、右下のポイントをシャッターチャンスとして、縦位置の構図を作りました。

ただし必ずレイルマン構図の位置に列車を置かなければいけないわけではありません。この写真のように、レイルマン構図のポイントから外れた、画面の隅に列車があっても、そのぶん雄大な景色を画面にたくさん入れ込み、全体のバランスが取れているようなら問題ないのです。一番最初にお見せした海と京急の作品も、レイルマン構図のポイントよりも、外側に列車が配置されています。
日本人は真面目なので、どうしても理論に頼りたくなりますが、僕の推奨するレイルマン構図や、一般的な三分割法などの構図理論よりも、自分が気持ちいいと感じるバランス感覚を養うことが大切です。
僕は写真を一枚の板としてイメージしています。何も乗っていない板は、指の上に中心を置くとバランスを取っています。そこにメインとなる列車を入れると、そちらだけ重くなり、板は大きく傾きます。その傾きを戻すために、板の何もない部分に風景を配置していく。そんなイメージを抱きながら構図を考えるようにしています。
ぜひみなさんが見つけた素敵な「季語」と列車をからめて、素敵な鉄道風景を撮影してみてくださいね。

流し撮りにチャレンジしよう!
列車の動感やスピード感を表現できる流し撮り(1/20秒)

列車の動感やスピード感を表現する流し撮り。一見すると難しそうに見えますが、練習すれば誰でもできるようになります。写真をはじめたばかりのころ、走ってきた列車を夢中で追いかけながら撮影した結果、偶然流し撮りになってしまったという経験がある方も多いと思います。走っている列車の動きにあわせて、無意識にカメラをパン(カメラを降ること)することで、ナチュラル流し撮りがキマっていたのです。
つまり流し撮りは、動いている被写体の動きと、カメラのパンをシンクロすることで、動体だけが止まって見え、背景が流れて写るのです。ちなみにみなさんの顔の前にグーを握って、そのグーを見ながら体全体を左右方向に振ってみてください。そのときゲンコツだけが止まって見え、背景が流れて見えますね。つまりゲンコツが列車で、あなたの目がカメラです。その動きがシンクロすることで、流し撮りは完成するのです。

シャッター速度によって変わる効果

1/30秒で撮影
1/250秒で撮影

上の2枚の流し撮りは、同じ場所で、ほぼ同じ速度で走る列車を流していますが、背景の流れ方により、スピード感がまったく違うのがわかると思います。ほぼ同じ速度なのに、左の写真のほうが速く見えますね。この差は、撮影するときのシャッター速度の違いによって生じています。つまりシャッター速度が遅ければ遅いほど、スピード感を表現できますが、そのぶん成功率は下がります。反対にシャッター速度を速くすれば、成功率は上がりますが、効果は薄くなってしまうのです。
流し撮りを上達するためには、まずは1/250秒くらいから練習をはじめ、うまくいくようになってきたら、シャッター速度を遅くしていくといいでしょう。ちなみに被写体となる列車の速度や、レンズの焦点距離によって流れの大きさが変わりますので、場所が決まったらシャッター速度を変えながら、テスト撮影するといいでしょう。

失敗例から学ぶ流し撮り


失敗例その1(日の丸構図)

実は流し撮りそのものは、けっこう簡単で、あっけないくらいに写し止めることができるようになるはずです。でもよく見ると、上の写真のように、日の丸構図になってしまっている人が多いのです。それは夢中になってしまい、つい画面の真ん中で列車を見てしまうから。AFのポイントを真ん中にしている人が多いため、ついここで見てしまうことが多いのです。それを避けるコツは、ファインダーの中の、列車を写したい位置で被写体を見ながらパンすること。AFのフォーカスポイントも、中央ではなく、列車を写したい位置のフォーカスポイントを選択し、そこで列車を捉えれば、日の丸構図を避けることができます。フォーカスポイント外に列車を置きたいときは、あらかじめピントを撮りたい位置の線路に「置きピン」しておけばいいでしょう。


失敗例その2(ゴチャゴチャした背景)

また流し撮りの場合は背景も重要です。この写真のように背景がごちゃごちゃしていると、列車が目立たなくなってしまいます。できるだけスッキリとした背景になる場所を選ぶようにしたいところです。

流し撮り 応用編


通称「木流し」の作例(1/30秒)

応用編として、列車の手前に木々や花、鉄橋のトラスなどを入れる、通称「木流し」というテクニックを使って、よりスピード感を演出する方法もあります。この作品では鉄橋のトラスが流れることで、よりスピード感が出ていますが、花や木などを手前に入れて流すと、季節感などをプラスすることもできます。手前に障害物が来るぶん、シャッターチャンスは難しくなりますが、ひと味違う流し撮り作品になります。


秘技!列車つかみ流し(笑)(1/13秒)

もっと慣れると、こんなおもしろ写真も撮れたりします。ちなみにこれは広角レンズを使い、片手でつまむ動作をしながら、列車と一緒にゲンコツを動かし、片手でカメラをパンしています。

オススメの練習場所

京急長沢近くの跨線橋はオススメ

とにかく流し撮りは練習あるのみ。道路を走る車でも回転寿司でも(笑)、とにかく動くモノならなんでも流し撮りできます。難しそうなんて敬遠せずに、ぜひチャレンジしてみてくださいね。
ちなみに今回の流し撮りの作例は、京急長沢駅近くの跨線橋から撮影しています。下り列車だと背景が森になるので、スッキリとした流し撮りが撮れます。そのほか六郷土手駅近くの多摩川の鉄橋もオススメです。
ぜひ練習して、スピード感ある京急の勇姿を撮影してみてくださいね。

中井精也(なかいせいや)

1967年、東京生まれ。鉄道の車両だけにこだわらず、鉄道にかかわるすべてのものを被写体として独自の視点で鉄道を撮影し、「1日1鉄!」や「ゆる鉄」など新しい鉄道写真のジャンルを生み出した。2004年春から毎日1枚必ず鉄道写真を撮影するブログ「1日1鉄!」を継続中。広告、雑誌写真の撮影のほか、講演やテレビ出演など幅広く活動している。
株式会社フォート・ナカイ代表。2015年、講談社出版文化賞・写真賞、日本写真協会賞新人賞受賞。著書・写真集に「1日1鉄!」、「デジタル一眼レフカメラと写真の教科書」「DREAM TRAIN」(インプレス・ジャパン)、「ゆる鉄」(クレオ)、「都電荒川線フォトさんぽ」(玄光社)などがある。甘党。

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