毎年大好評いただいている京急カレンダーの2018年度版の作品が決定しました。

今回も力作が多く、たった26点しかない採用作品を選ぶのにとても苦労しましたが、昨年よりもさらにパワーアップしたカレンダーになりました。
いったいどんな作品が選ばれたのでしょうか?

そして毎年恒例となりました、中井精也の鉄道写真講座。
今回は2018年度京急カレンダーに応募していただいた作品の中から、惜しくも選考を逃した名作をご紹介するとともに、その写真をより良くする方法やアイディアを、解説したいと思います。

線路脇に並んだ鯉のぼり。
こんな素晴らしいポイント、よくぞ見つけましたね。
鯉のぼりは肝心の列車が来たタイミングで風が止んで、だら〜んとしてしまうことが多いですが、ここでは作品タイトルの通り、みごとに風に泳いでいます。
構図的にも問題はとくにないのですが、せっかくここまで素晴らしい鯉のぼりに出会ったなら、もっと鯉のぼりを目立たせてあげてもいいのではと思いました。

そこでこんなふうな構図にしてみると、列車の最後尾は切れてしまいますが、背景のマンションなどが画面から外れることで、鯉のぼりがより目立ち、季節感が強調されたのではないかと思います。

列車の最後尾まで写真に収めるのは鉄道写真の基本で、鉄道ファンとしては優先したいところですが、カレンダーでもありますし、ここでは車両よりも季節感を重視してもいいでしょう。

さらにカレンダーを無視して縦位置の構図にすれば、よりダイナミックに鯉のぼりを目立たせることができます。
鉄道写真の主役は「鉄道」ですが、撮影地でいいなぁと感じた魅力的な被写体があれば、そちらを主役にした写真にしたほうが、より撮り手の想いが伝わる写真になるのです。

画面全体に桜を配し、主題である列車が入る空間をポケットのように開けておく「主題ポケット構図」が見事な作品です。
僕は常々、曇天の白い空は写真の力を弱めるため、「白い空は親のカタキと思え」と力説していますが(笑)、ここでは桜を使って「親のカタキ」をうまくカバーしているところも、とても上手いと感じました。
並んだ提灯も、桜並木の奥行きを演出していてニクいですね。
ただ1点、惜しかったのは露出です。

こちらは写真の明るさを調整したもの。元の写真に比べ、全体が明るい雰囲気になり、春らしい爽やかな感じが出たのではないでしょうか。

実はこの作品は、桜の撮影でありがちな「隠れアンダー」の写真だったのです。このように画面全体に白い桜が配置されている場合、カメラのAE(オート露出)は影響を受け、露出アンダーに(暗く)なりがちです。眩しい雪面や白い空を画面いっぱいに入れたときも、同じような写真になってしまった経験があるひとも多いでしょう。ただし最近のカメラのAEはとても優秀で、昔ほど露骨に露出アンダーにならなくなりました。でもその結果、わずかに露出アンダーであることに気づかない「隠れアンダー」写真になってしまうことがあるのです。この写真もやはり、隠れアンダー気味だったので、知らないうちに爽やかさが削がれてしまっていたのです。

色と構図もわずかに調整しました。まずホワイトバランスを使って桜の花の色に近いM(マゼンタ)をプラスし、より春らしい色にしています。さらに写真右側の柱が目立ったので、ほんの少しトリミングしました。ほんのわずかな露出と構図の差で、これほど大きな差がでるのが、おわかりいただけたと思います。

今後は桜の撮影では、一枚だけ撮るのではなく、できるだけ明るさを変えてテスト撮影する「段階露光」をするようにしましょう。きっと自分ごのみの爽やかな露出が見つかるはずですよ。

ピンクと白の爽やかなタチアオイの花と、列車の奥にはみごとな入道雲。とても爽やかな夏の風景ですね。入道雲のカタチは刻々と変化するので、まさに運にも恵まれた一枚と言えるでしょう。

ただ、ちょっと気になるのが、右下の白い柵です。たぶん庭山さんも撮影時に、「この柵がなければいいのになぁ」なんて思ったことでしょう。おそらく白い柵は画面から外した構図にしたいけど、せっかくの左側の白い花が画面から外れてしまうため、苦渋の選択として画面にいれたのだと思います。

ここが大切なポイントなのですが、「構図づくりのときに邪魔だと思った被写体は、写真にすると確実に邪魔モノになる」ということ。やはりここは心を鬼にして、白い花もろとも柵を構図から外したフレーミングにしてみましょう。

せっかくなので、柵だけでなく架線柱もカットしてスッキリとした構図にしてみました。すると列車は下ギリギリの位置になったものの、邪魔な被写体が画面から外れたことで、季節感をより強調することができました。

そしてもったいないと思っていた白い花ですが、一部でも画面のなかに花が写っていれば、花のボリュームもそれほど失われていないのがわかると思います。構図をつくるときに、まず入れたくないものを意識し、それを構図から外すことを優先してフレーミングする習慣をつけるといいでしょう。

青い空をバックに走るKEIKYU BLUE SKY TRAINがとても爽やかな作品です。
このままでも問題ないのですが、せっかくの青空と青い電車なので、その部分だけを切り撮ったら面白そうだと思いました。
トリミングしたのが次のカットです。

画面全体が青くなり、とても爽やかな雰囲気になったのではないでしょうか?
でもこれはあくまでも僕の好み。もしかしたら元の構図のほうがいいという人も多いと思います。写真ってコレだ!っていう正解はないんですね。

でも僕がこうしたほうがいいと思う理由はもう一つあります。それは「写真の主役が何かを明確にしたい」という考えです。元写真だと、写真の主役は電車そのものというより、「橋りょう」が主役になっています。本来なら橋りょうを主役にするばあい、もう少し列車が画面の上にある構図のほうが落ち着くのですが、左側の家と青空を入れた構図にしようとした結果、電車が画面のほぼ真ん中にきています。結果として橋りょうも青空も家もキレイに表現されているのですが、その中のどれを強調したかったのかが明確ではない総花的な写真になっているように感じるのです。もしかしたらKEIKYU BLUE SKY TRAINでなければ、この構図でも良かったかもしれませんが、せっかくの青づくし、僕はつい強調したくなってしまうのです。

とても細かい話になってしまいましたが、自分の意図を明確にするほど、写真の力は強くなります。全体をなんとなく撮るのではなく、風景のどこを自分がいいと感じたかを自己分析し、そこを強調してみるクセをつけることも、大切なのかもしれません。

いやこの写真には驚きました。正直言ってしまえばカレンダー向きではありませんが、写真としてはとてもレベルの高い作品だと感じました。いまや貴重になった踏切。しかも4車線の立派な道路をせき止め、列車が堂々と走る風景はとても面白いですね。列車と正対して撮ることで、スナップではなく、作品感を高めているのも上手いところです。

ただ電車というのは、とても力が強い被写体です。せっかく道路を目立たせた構図にしたのに、列車がはっきりと写ってしまっていると、写真を見る人の目線は、つい電車に引っ張られがちです。

そこで低速シャッターにして、列車をブラしてみました。すると強かった列車の吸引力が弱まり、作者が見せたかった道路がみごとに強調されているのがわかると思います。

撮影するとき、どうしても鉄道が目立ちすぎてしまう場合は、思い切って電車をブラしたり、ピンぼけにすることで、その力を弱めることができますので、ぜひお試しください。

これはみごとな花火と電車の写真です。
花火と電車を撮影すると、電車が光の線になってしまいますが、ここでは駅に停車中の電車を入れることで、花火と電車をみごとに一枚の作品に収めています。
花火の色も京急とお揃いでキレイですね。この写真は見た瞬間にカレンダーに使いたいと思ったのですが、よくよく見ると花火と列車が画面の端にありすぎて、バランスが厳しく、印刷的にもリスキーということで、泣く泣く落選となりました。惜しいっ!

そこで画面に余裕をもたせたのがこのカット。実際に現場に行ったことがないので、本当にこんな風に撮れるかわからないのですが、これくらい余裕があれば、カレンダーの8月を飾れたと思います。

もし画面したギリギリのところにネオン看板などがあるばあいは、黒い下敷きなどを用意して、レンズの前に当ててその部分を隠してしまえば、余裕ある黒い空間を作れます。

どうせ明るい駅と花火に露出を合わせてしまうと、それ以外は真っ黒に潰れてしまうので、黒い板を画面に入れ込んでも、違和感なく黒い余裕をとることができるのです。また花火は玉によって高さが違うので、少し広めに撮っておき、トリミングして構図を修正するのもアリだと思います。

ぜひまた次回チャレンジしてみてくださいね。

今回は写真募集時に講評コーナーへの掲載OKとしていただいた作品をご紹介しました。実際に現場に行っていないので、実際には不可能なアドバイスもあったかもしれませんが、参考として読んでいただければと思います。

それにしても、どれがカレンダーを飾ってもおかしくない力作揃いだったと思います。ご協力いただいた撮影者のみなさま、本当にありがとうございました。ぜひこれを参考にしていだたき、次回カレンダーの作品づくりに役立ててくださいね。

中井精也氏(なかいせいや)

1967年、東京生まれ。鉄道の車両だけにこだわらず、鉄道にかかわるすべてのものを被写体として独自の視点で鉄道を撮影し、「1日1鉄!」や「ゆる鉄」など新しい鉄道写真のジャンルを生み出した。2004年春から毎日1枚必ず鉄道写真を撮影するブログ「1日1鉄!」を継続中。広告、雑誌写真の撮影のほか、講演やテレビ出演など幅広く活動している。
株式会社フォート・ナカイ代表。2015年、講談社出版文化賞・写真賞、日本写真協会賞新人賞受賞。著書・写真集に「1日1鉄!」、「デジタル一眼レフカメラと写真の教科書」「DREAM TRAIN」(インプレス・ジャパン)、「ゆる鉄」(クレオ)、「都電荒川線フォトさんぽ」(玄光社)などがある。甘党。

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